鳥籠の姫
目に仄暗い感情を浮かべながら香音人は美桜の肩を抱き寄せ、ブツブツと呟く。それに恐怖を感じた美桜は香音人の手をどけ、「大丈夫です!」と言い、素早く車から降りる。

「送っていただいて、ありがとうございます」

「可愛い婚約者のためだったら何だってするよ。帰りも迎えに来るから、ちゃんといい子で待っててね」

香音人は優しく微笑み、軽く美桜を抱き締めてから会社へと行く。香音人が乗った車が見えなくなると美桜は一気に安心し、近くにあるベンチへと腰掛ける。

「怖かった……」

あのまま大学を休んでいたらどうなっていたのか、仄暗くドロリとした甘さを秘めた瞳を思い出すだけで、美桜の体に寒気が走った。



少しベンチで休んだ後、美桜は講義を受けるために立ち上がる。そして教室に向かおうと歩き出したのだが、足元に何かが当たった感覚がし、地面に目を向ける。

「これ、誰かの落とし物?」

そこに落ちていたのは、シンプルな黒の一本のボールペンだ。美桜はボールペンを少し見つめた後、拾って自分のかばんの中に入れる。落とし主がいないかどうか探してみようと思ったのだ。
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