鳥籠の姫
パーティーホールに二人で入るのだと美桜は思っていたのだが、香音人はその前を通り過ぎて歩いて行く。

「香音人さん、ホールを通り過ぎています」

美桜がそう言うと、「先に渡したいものがあるんだ」と香音人は美桜の手を引いたまま言う。香音人は前を向いているため、表情は見えない。美桜は、自分の胸がどこか騒ついていくのがわかった。

階段を一段ずつ上がり、美桜が連れて行かれたのは香音人の部屋だ。北欧家具で統一された部屋は、どこか大人びて見える。彼の部屋に美桜が最後に入ったのは、中等科を卒業した時だ。

「相変わらず、おしゃれな部屋ですね」

美桜が呟くように言うと、香音人は引き出しを開けながら「そう言ってくれると嬉しいな」と返す。数秒後、美桜の目の前で香音人は跪いた。その手には小さな箱があり、有名ブランドの指輪が入っている。大きなダイヤモンドとルビーが使われ、一般庶民には買えない値段であろう指輪は箱の中で煌めいている。
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