鳥籠の姫
美桜は何度も心の中でそう思うも、口にしたところで香音人との婚約は取り消すことができない。ただ笑みを張り付け、親の望む未来へと歩んでいく。

婚約が決まってから一ヶ月後、美桜は母が使用人に用意させていたブランド物の白い清楚なワンピースを着せられ、同じく白いロングシャツに黒いパンツ姿の香音人の前に立たされる。これから、月に一度のお出かけなのだ。世間で言えばデートであり、美桜にとっては初めて異性と出かける日だった。

「そのワンピース、とても素敵だね。この前の豪華な振袖姿も綺麗だったけど、そういう清楚なものもよく似合ってるよ」

視線が絡まった瞬間、香音人はどこか嬉しそうな表情を見せて美桜を褒めてくる。美桜に付き添い、一緒に香音人の家まで来た母は「まあ!」と言いながら頬を赤く染める。

「美桜、ちゃんとお礼を言いなさい。褒めてもらえているのよ」

「あ、ありがとうございます……」

母に背中を軽く叩かれ、美桜は俯きがちにお礼を言う。一ヶ月前に知り合ったばかりの人と二人で出かけるなど、気持ちはどんどん沈んでいくばかりだ。
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