海であなたが救ってくれました
 再び上半身を起こし、レモンサワーを一気飲みする。
 泣いてもどうにもならないとわかっているのだから、泣くなと自分に言い聞かせた。
 両目から流れ落ちて頬を伝った涙を、左手の甲でごしごしと(ぬぐ)う。

 皮肉にもその動作で気づいてしまった。左手の薬指に、まだ指輪が(はま)っていることに。

 それは昔、彼氏である丈治(じょうじ)が付き合って初めての私への誕生日プレゼントでくれたものだ。
 ああ、もう彼氏ではなく“元カレ”か。

 もらったときはうれしくてとても大切にしていたのに、今は見ているだけで憎らしい。
 薬指から引っこ抜くようにはずした指輪を握りしめ、海に向かって力いっぱい投げつけた。

 未練がましいのは嫌だ。
 こうしてひとつひとつ、丈治との思い出も自分の気持ちも、整理していかなければ……。

 あれがもし婚約指輪だったのなら、高価なものだから相手に返すべきなのだろうけれど。
 私がもらったのは、一般的なファッションリングだ。捨てていいと思う。
 
 ……いや、待って。
 あの指輪には小さいけど石が付いていた。なにも考えずに浜辺に投げ捨てたものの、誰かが踏んで足を怪我したらどうしよう。子どもが見つけて飲み込んでしまったら?


「私のバカ!」


 これから本格的な夏が来たら、ここは海水浴客でいっぱいになる。
 不要だからといって安易に海に投げ捨てるだなんて、自分のしたことが恥ずかしい。

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