海であなたが救ってくれました
「海なら楽に死ねると思いました? 自殺なんて考えるなよ!」
「は?! 自殺?! しないしない! 誤解です」
首を横に振って否定する私を目にし、男性は一瞬ポカンとしたあと、ハァーッと大きく息を吐いてうなだれた。
「今のはどう見たって“入水自殺”だ。ああもう、焦った! 違うのか」
「……すみません」
おずおずと謝りの言葉を口にする。すると彼はホッとしたのもつかの間、今度はあきれた声で尋ねてきた。
「じゃあ、あんなところでなにをしてたんですか?」
「ちょっと……探し物を」
「探し物? 今日は新月だし、真っ暗な海で見つかるわけがないでしょう」
スマホのライトを付けていたとはいえ圧倒的に光量が足りず、たしかになにも見えなかった。
新月なのは気づいていなかったけれど、この人の言うとおりだ。傍から見たら私は完全に不審者だろう。