赤ちゃんを授かったら、一途な御曹司に執着溺愛されました
決して爆笑しているわけでも会話が弾んで声が大きくなっているわけでもない。
ふたりは至って普通の顔をして冷静に話をしているだけだ。
けれど、そうしているのが当たり前のような雰囲気がふたりの間にはたしかにあって……胸が痛みで締め付けられた。
あの時もそうだった。高校二年生の頃、雨の中で見たふたりも、大人同士の空気をまとっていた。私が割って入れないような、そんな空気を。
じゃれつかなくても、〝好き〟だとか特別な言葉なんて言っていなくても、ただ視線を交わしているだけなのにふたりの世界が広がっていて入り込めないような雰囲気を感じた。
だから……匡さんの顔を見るたびに飛びついて、誰から見てもわかるような嬉しさを隠しきれない笑顔で、飽きずに大好きだと伝える自分がとても滑稽に思えた。
あのふたりが〝本物〟で、私が〝偽物〟に思えた。
赤い傘の女性は、あの頃と変わらず綺麗で大人で……そして、当たり前のように今も匡さんの隣に立っている。
相葉くんは二、三年前からだと言ったけれどそれは違う。
私が高校二年生の頃にはすでに親し気だったから、少なくとも六年以上前からの関係だ。
『結婚指輪してたもん。直接聞いたこともあったけど、匡くんの前だって言うのに普通に笑顔で〝結婚してますよ〟とか言ってた』
ふと麻里奈ちゃんの言葉を思い出し……自然と視線が下がっていた。