赤ちゃんを授かったら、一途な御曹司に執着溺愛されました
ふたりがどんな関係だったとしても、どんな事情があったとしても、匡さんが妻として選んでくれたのは私だ。
卑屈にならず、そこに自信を持たないと。
そう自分に言い聞かせる。
髪をバッサリ切って、私的にはもう一区切りつけたのだ。いつまでも思い出して傷つき続けたら私が可哀相だ。
「ちゃんと前向かないと」
口の中でぶつぶつと自分を鼓舞しながら、割り切れ割り切れ、と念じる。
昔からメンタルを持ち直すのは得意な方だ。
だから今回だって問題ないと思いながらネクタイを選んでいると、不意に後ろから髪に触れられる。
気付けば匡さんが後ろに立っていて、そういえばちょうど二週間前もこんなことがあったと思い出した。
私が考え事に熱中しすぎていたのもあるかもしれないけれど、気配を消して背後に立つのはやめて欲しい。普通に驚いて声を上げてしまいそうだ。
「お風呂、もう上がったんですか?」
飛び出しかけた心臓を落ち着かせながら聞いてみたけれど返事はなかった。
私の後頭部の髪を指先ですくい眺めている様子の匡さんに、じっとしていた方がいいだろうか……と悩んでいると「報告がなかったが、どこで切った?」と聞かれる。
思っていた通り髪のカットは要報告事項だったらしい。滝さんに相談したら止められていたかもしれない。
勝手に抜け出した罪悪感はあったので、「勝手にすみませんでした」と再度謝ってから答えようとしたのだけれど。