赤ちゃんを授かったら、一途な御曹司に執着溺愛されました


電話の向こうから聞こえる声は申し訳なさそうにやや沈んでいたが、責める気はない。

彼女はスパイでもなんでもないのだから、誰かの視線や気配をすぐ察知しろと言うほうが無理な話だ。

あの時していた話が話なだけに、そちらに集中していて当たり前だった。
美織に話の内容までは聞かれていなかったようで、そこに胸を撫でおろす。

『麻里奈さんには適当に誤魔化してその場を後にしてしまいましたが……彼女の様子からすると、もしかしたら私について調べるかもしれません。名乗ってはいませんが、車のナンバーは見られた可能性があります』

祥子さんに似て自分勝手で傲慢な麻里奈が俺に執拗な執着を見せているのは知っていた。だから美織への当たりの強さを危惧していたが、予想に反して麻里奈はどういうわけか美織に懐いている。

暴言を吐いて美織を傷つけるのも問題だが、美織にあることないことを吹き込まれるのも迷惑だ。

あの親子は思考的にも行動的にも暴走癖がある。
俺の目が届かない時を考え、滝に再度しっかりと話をしておいた方がよさそうだ。

「その時はその時で対応しますので、今まで通り継続でお願いします」

ドアの隙間から室内に視線を向ける。
ベッドの上で眠る美織を眺めていると、『それはもちろん』とにこやかな声が聞こえた。


< 135 / 248 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop