赤ちゃんを授かったら、一途な御曹司に執着溺愛されました
咄嗟に見上げた先にあったのは匡さんの横顔で、突然の登場にもだけれど、私の肩を抱く腕の力に驚く。
それほどに強い力だった。この男性が私の腕を掴んでいた力の比ではない。
「彼女になにか」
再度聞いた声は、静かだったけれど切り込むような鋭さがあった。
「あ、いや……その、僕は……」
「お久しぶりですね。まさか、またこうして姿を現すとは驚きました。用事があるようですので、後ほどこちらから伺います。ご自宅も電話番号も知っていますのでご心配なく」
強引に話を切った匡さんは、相手の男性からの返事を待たずに歩き出す。
どうして匡さんが今ここにいるのか、どうしてあの男性の自宅や電話番号を知っているのか、聞きたいことはあったのだけれど……そのどれもが声にはできずに口をつぐんだ。
緩まない腕の力も、一度も重ならない視線も、匡さんの怒りを体現していて何も言えなかった。
玄関で、滝さんは匡さんと私を見るなり驚いた顔を浮かべた。
「匡様、どうかなさいましたか?」
「いや、問題ない。今日は仕事が片付いたから切り上げただけだ」
どう見てもそんな雰囲気ではないけれど、滝さんは「そうですか」とだけ返し、それから私にチラッと視線を向けた。
その眼差しに少しの心配が覗いていたのは、匡さんが醸し出す空気のせいといって間違いないだろう。
怒っているのが誰にでもわかるほどピリついている。
自然と背筋が伸びてしまうほどには恐怖のオーラが漂っていた。