赤ちゃんを授かったら、一途な御曹司に執着溺愛されました
「あの、でも、私、誰にも名乗ったりしていませんし、匡さんの顔に泥を塗るような真似もしていません。ただ三十分程度ポスティングしていただけで……」
「自由に使っていいとカードを渡してあるはずだが」
「それはそうなんですけど……自分で稼ぎたかったんです」
私はそこまで大それたわがままを言ってはいないと思う。
ただ、友達の誕生日プレゼント代を自分で用意したかっただけだ。
不健全でもなんでもない。
けれど匡さんが出す空気は明らかに私が悪いと責めていて、次第に私自身もそう思えてきてしまう。
新婚旅行の時と一緒だ。
帰りの機内でも、これと同じような会話をして、こんな空気で押さえつけられた。
この二カ月近くで匡さんの微笑んだ顔も見られたし、柔らかい声も聞いた。思い出話をして、顔を合わせて笑ったこともあった。
だから、少しずつでも近付けているのかと思っていたけれど……こんな雰囲気になるたびに思い知る。
私は、最初からずっと匡さんとの距離を埋められてはいないのだと。
今、ひとりで外出したことを怒られているということよりも、縮められていなかった距離の方にショックを受け落ち込んでいると、匡さんがため息をついたのが音でわかった。