赤ちゃんを授かったら、一途な御曹司に執着溺愛されました
「そんな顔をするな。美織に窮屈な生活を強いていることは、俺自身もわかっているし、あの庭師の言うことも間違ってはいない。だから……これ以上誰も責めるつもりもない。顔を上げろ」
私が怒られて落ち込んでいると思っている様子の匡さんに言われる。
ゆっくりと視線を上げると、いつの間に立ち上がったのか、彼が私に近付いてくるところだった。
一歩分残して止まった匡さんが、私の頭を撫でる。優しい手だった。
「強引にして悪かった」
「……いえ。あの男性とは知り合いなんですか?」
あの顔にも声にも覚えはある。
それなのに頑なに肝心なことが思い出せない状態が気持ち悪くて聞くと、匡さんは私の表情を探るようにじっと見てから「いや」と首を横に振った。
「でも、匡さん〝久しぶり〟って……」
「俺もよくは知らないが、仕事関係だろう。おそらく面識はあると思い、ああ言っただけだ。こちらに認識されているという事実はある程度、牽制の材料となる。ここ最近、家の周りをうろついていると報告を受けていたんだ」
はったりだったのか、なるほど……と納得しかけてからふと思い出す。
「え、でも仕事関係ですか? だとしたらおかしいです。あの男性は私の名前を知っていました。それに呼び方も、まるで知り合いみたいに〝美織ちゃん〟って……」
匡さんとの結婚は、いくつかの雑誌に載った。
それは世界に名を馳せる桧山グループの御曹司なのだから当然で、でも私の名前や写真はどこにも掲載を許可していないから安心するよう匡さんから言われていた。
だから、私の名前を知っているなら私側の知り合いだと思うのに、匡さんは頑なにそれを否定した。不自然なほどに。