赤ちゃんを授かったら、一途な御曹司に執着溺愛されました
沢井さんの口から匡さんの話題が出るたびに、少しずつ呼吸が浅くなる。
息苦しさを感じながら「匡さんを、よくご存じなんですね」と絞り出すように言うと、沢井さんはにこりと笑った。
「ええ。もう関係が長いですから。なので、匡さんのことはもちろん、美織さんのこともよく知っています」
〝全部、匡さんから聞いています〟と言わんばかりの微笑みを直視できず目を伏せる。
関係が長いと言った沢井さんに、あの雨の日が思い浮かんだ。
あのときはもうだいぶ親しそうだったから、もっと前からの関係だったとして……もしかして私よりも長いのだろうか。
動揺した心臓がドコドコうるさい中でそんな疑問が浮かび……でもすぐに頭を振ってふるい落とす。
仮に私の方が関係が長かったと判明したところでなんの解決にも安心材料にもならない。
そんなので比べるのは馬鹿馬鹿しい……と考えていたところで、麻里奈ちゃんがふん、と鼻を鳴らした。
「関係だったら麻里奈と美織さんの方が長いから。我が物顔で匡くんのこと話すのやめてくれる? あなたが知ってることなんて麻里奈だって全部知ってるし」
「それは失礼しました。でも、匡さんも大変ですよね。未だに従妹のおもりをしなければならないなんて」
沢井さんは麻里奈ちゃんの威勢に怯む様子は一切見せなかった。
それどころか、いかにも同情しています、と言わんばかりの表情を浮かべて見せる。
私も人のことは言えないけれど、血の気が多いタイプだ。
「はぁ!? おもりって馬鹿にしてるの!? その前に匡くんとどういう関係なわけ? どうせ表に出せないような関係でしかないんでしょ!?」