赤ちゃんを授かったら、一途な御曹司に執着溺愛されました


「これ、匡さんが忘れて行かれたものです。とても大事にされているようでしたのでお持ちしました。美織さんから渡していただけますか?」

置かれたのは、フェルトでできた……はたから見たらなんだかよくわからない物だった。
綺麗に保たれてはいるけれど、毛羽立ち具合や色合いから見て、おそらく相当古い。

手を伸ばして、確認する。
ユニフォームを模っていると思われる青のフェルトには、オレンジの丸く切り取られたフェルトが黒い刺繍糸で不器用に縫い付けられている。

裏地があるわけでも、中に綿が入っているわけでも、キーホルダーになっているわけでもない。ただのペラペラのフェルトだ。

これを……こんな物を、匡さんが本当に大事にしていたの?
あの匡さんが?

信じられない思いで手の中の青いフェルトを見つめていると、麻里奈ちゃんも覗き込んでくる。

「あ、これ、麻里奈も知ってる。匡くんが昔からずっと持ち歩いてるやつ。いつもスーツの内ポケットに入れてた」
「もちろん、奥様である美織さんもご存じですよね」

ハッとして顔を上げると、沢井さんが口の端を上げて私を見ていた。

知らなかった、なんて言えるはずがなくただ口をつぐみ動揺しているうちに彼女が続ける。



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