赤ちゃんを授かったら、一途な御曹司に執着溺愛されました
「うちでスーツを脱いだときに落としたんでしょうね」
にっこりとした綺麗な笑みから落とされた爆弾発言に真っ先に反応したのは麻里奈ちゃんだった。
「は? それ、喧嘩売ってるよね? 匡くんとはあなたの家でふたりで会うような関係だって言いたいの? 匡くんのスーツ脱がしてなにしたの!?」
ソファから勢いよく立ち上がった麻里奈ちゃんがひと呼吸に怒鳴る。
それは、私に対して『認めないから!』と叫んだときと同じくらいの剣幕だったのに、沢井さんはそれでも慌てた様子は見せなかった。
「そんな興奮なさらないでください。……ああ、でも、匡さん、肩の後ろに傷が残ってるんですね。匡さん本人は勲章だとおっしゃってどこか誇らしげでしたが、少し驚きました」
この家に来てからずっと冷静な沢井さんから発せられた事実に、声を失うほど動揺したのは私だった。
匡さんの肩には、たしかに傷が残っている。
私も、イタリアでの初夜で初めて知ったときには少し驚いた。だって、匡さんとは幼い頃からずっと週に一度は会っていたのに、いつ怪我をしたのか気付かなかったから。
『あの、この傷はいつ頃のものですか? 私、全然知らなくて……痛かったですよね』
ベッドの上。匡さんの肩の後ろに残る傷跡に触れながら聞いた私に、彼は『いや』と首を振った。
『自分自身でも忘れていたくらいだ。気にする必要はない』
私にはそう説明していたのを覚えている。
きっと、沢井さんにした返答が本心なのだろうというのがわかってしまい、唇をかみしめる。