赤ちゃんを授かったら、一途な御曹司に執着溺愛されました
ちなみに、相葉くんは継続して桧山家の庭の庭師として変わらず仕事をしている。
匡さんは『今後、同じことが起こらないならそれでいい』と淡々と言っていたように見えたけれど……もしかしたら、心の内はそこまでドライではなかったのかもしれない。
……ううん。きっとそうだ。
不器用で優しい人だって、私が気付けなかっただけで。
「もしかして、匡くんとなにかあった?」
十畳ほどのリビングダイニングと六畳の部屋がふたつある間取りのこのマンションに引っ越してきたのは、たしか私が小学一年生の頃。
私にとっては初めての経験だったからとてもワクワクしていたのを覚えている。
雅弘おじ様や匡さんも手伝ってくれて、その日の終わりにはみんなで食事に出かけた。
楽しい思い出として分類されていたけれど……その引っ越しの理由は――。
「なんか、色々と混乱しちゃって、匡さんの気持ちも、自分自身の気持ちも少しわからなくなっちゃって」
匡さんと一緒に実家を訪ねると母はソファに通すので、ダイニングテーブルにこうして向かい合って座るのは、結婚後初めてだった。
入れたてのレモンティーが湯気を立てているのを眺めながら力なく言った私に、母は共感するように優しく目を細めた。