赤ちゃんを授かったら、一途な御曹司に執着溺愛されました


「生活が全然違うものね。美織が戸惑ったり混乱するのも無理はないと思う。慣れるまでは窮屈だと思うのも仕方ないんじゃないかなって」
「うん……」
「誰だって、新しい環境に置かれたらすぐには頭も心も対応できないもの。クラス替え程度だって苦労するんだから、桧山家なんて比べ物にならないし、すぐに馴染もうなんて肩に力入れなくていいのよ。焦らなくてもゆっくりでいいんじゃない?」

母に言われ、ふと思う。
私はクラス替えでもあまり苦労はなかった。
人見知りはしないし誰かと話すのも好きだけれど、ひとりならひとりでも気にならなかった。

友達は自然とできるものだと思っていたし、実際にそうだったから周りに恵まれていたのだろう。

意地悪な言葉をかけられても言い返したし、後には引きずらなかったから、いざこざがまったくなかったわけではないにしても、嫌な思い出として残ってはいない。

それは幸せなことなのだろうと思うものの……。

「私って、なんの苦労も知らずにここまで来ちゃったんだなって思う。もっと世間に揉まれてから結婚するべきだったんだよ」

ぼそぼそと言った私に、母は「どうしてそう思うの?」と不思議そうな声で聞いた。

「もっと、常に自分に自信を持てるような女性だったらきっと、匡さんの気持ちを疑って不安になったりしなかった。私が弱くて、誇れるものなんて匡さんへの気持ちだけみたいな子どものままだから、肝心なところで彼を信じられなくなって折れちゃったんだって思うから」


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