赤ちゃんを授かったら、一途な御曹司に執着溺愛されました


匡さんが好きだとあんなに豪語していたくせに、私はきちんと彼を見られていなかった。

好きになってもらえなくてもいい、十分幸せだから、なんて自分自身を誤魔化して、匡さんを勝手に遠ざけていた。

向き合わなかったのは匡さんじゃなくて、私の方だった。
先に変わったのもきっと……私の方だ。

『私は気にすることじゃないから理由は聞くな、でも匡さんの敷いたルールには黙って従えと……そういうことを言っていますか?』

匡さんはそんなこと望んでいなかったのに。
私のあの言葉はきっと、彼を傷つけた。

「……お母さん」

ゆっくりと視線を上げ、目を合わせ続ける。

「私のおでこの傷と、匡さんの肩の傷……同じ日につけられたものだよね?」

真っすぐに見つめて聞いた私に、母は驚きからか息をのんだあと、心配そうに顔を歪めた。

動揺から揺れる母の瞳が、私の言った言葉を肯定していて、やっぱり……と胸がいっぱいになる。

「いつ、思い出したの? この間、電話したときには忘れてたみたいだったのに」

最初に不思議に感じたのは、おでこの傷について麻里奈ちゃんに話したときだった。病院からの帰りの車内の会話まで覚えているのに、肝心の怪我の理由を思い出せなかったから。

次は、お皿の割れた音を匡さんの部屋で聞いたとき。
ただ驚いたにしては、鼓動が跳ね上がったまましばらく戻ってこなくて違和感を抱いた。

そして、ポスティング中に話しかけてきた男性を見たとき。その後の、匡さんの嘘。

最後は……。


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