赤ちゃんを授かったら、一途な御曹司に執着溺愛されました
「これを見て、全部思い出した」
バッグの中から取り出したのは、沢井さんから渡された、ユニフォームを模って切られた青いフェルト。
見た途端に、「やだ、そんなのまだ持ってたの?」と呆れて笑い出した母に頷く。
「匡さんがずっと大事に持っててくれたって、私も今日知った。これ、私が作って匡さんにあげたものだよね。〝助けてくれたお礼〟って」
青いフェルトに留めていた視線をゆっくりと上げ、母と目を合わせる。
「叔母さん、元気にしてる?」と聞いた私に、母は少しだけ目を見開いたけれど、すぐに微笑みを浮かべた。
「うん。お母さんもそこまで連絡を取り合っているわけではないけど、元気にしてるみたい。美織との一件があってからすぐに離婚が成立して、それからは穏やかな暮らしになったって、感謝してるって、毎年年賀状をくれるから」
亡くなった私の父には弟がいる。
一卵性の双子で、父と叔父さんは顔立ちから体型、そして声までそっくりだった。
叔父さんの奥さんが、今話題に出た叔母さんだ。
離婚したと聞いて、ホッとする。
「そっか。よかった。叔母さん、私に優しくしてくれてたから」
「そうね。……美織はどこまで思い出したの? お母さんの夜勤のことは? 前回の電話では忘れてるみたいだったけど」
母が遠慮がちに聞く。
全部言っていいものか図っているようだった。
「たぶん全部。私が小さい頃も、お母さんは夜勤に出てたよね。その間、私は叔母さんの家に預けられてた」
「そう」と頷いた母が、ゆっくりと口を開く。