赤ちゃんを授かったら、一途な御曹司に執着溺愛されました


「美織にとってはツラい経験だったから記憶にフタがされていたんだと思う。あの事件の直後は美織も覚えていて夜泣いたりもしていたんだけど、数カ月経った頃から叔母さんの家に預けられていた頃の記憶がすっぽりなくなってるみたいだったから。幼い頃の記憶は不安定だし、自然と忘れた可能性もあるのかなと思ってたけど……そんなわけなかったよね。ごめんね」

申し訳なさそうに眉尻を下げて謝る母に首を振る。
母は悪くない。私たちの生活のために仕事を頑張ってくれていただけなのだから。

「叔父さん、双子だけあって本当によくお父さんに似てたから、美織は小さい頃からよく懐いてた。叔父さんも優しかったし、お願いしたらふたつ返事でOKしてくれたから美織のことをお願いしたの。でも、今思えば、叔父さんは外面がよかっただけだったのよね。お父さんと似ているのは外側だけで、中身は全然違ってた。それに、気付けなかった」

視線を下げた母が眉間にシワを寄せ、後悔の滲む声で話す。

「美織、甘えん坊だったのにいつからか〝ひとりでお風呂入る〟って言いだして……成長したんだなって思ってたけど、本当は違ったよね。体につけられた痣を隠すためだったんだよね。お母さん、全然気づいてあげられなくて……本当にごめんね」

叔父さんは、頭に血が上ったように怒鳴り手を上げるのに、服に隠れない部分には痕を残さなかった。


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