赤ちゃんを授かったら、一途な御曹司に執着溺愛されました
いつもだったら、小学一年生の私がその音に腰を上げることはまずない。
自宅なら母が出るし、叔母さんの家では叔母さんが出る。
ひとりのときには出ないようにと言われていた。
なのにあのとき、とっさに私が反応したのは、インターホンの音がまるで救いに思えたからだった。
立ち上がり、玄関までを一気に走った。そして玄関ドアを開けて誰かも確認せずに『助けて』としがみついた。
見上げて、それが匡さんだとわかった途端、我慢していた感情が溢れ大声で泣き出した。
あのとき、匡さんがどんな顔をしていたのかまでは覚えていないけれど、すぐに私を抱き上げてくれて、落ち着くように宥めてくれた。
『大丈夫だ。美織はもうなにも我慢しなくていいし、なにも心配しなくていい』
匡さんは言葉通り、叔父さんを止めてくれた。
肩の傷は、叔父さんが私に向かって振り上げたお皿から庇ってくれたときのものだ。
だから私は、似た音が苦手なんだと、今気付く。
私を自分の体で庇った後、匡さんは叔父さんを抑え込んだままの体勢で携帯を耳に当てていた。
記憶のフタが外れた今、その光景までハッキリと思い出せていた。
病院で私が額を縫っている間、匡さんも肩を縫っていたのだろう。匡さんの方がよっぽどひどい怪我だったのに、私には何も言わずにいたのだ。
帰りの車のなかで匡さんは『おまえは強いな』と言ったけれど、本当に強いのは匡さんの方だ。
強いのも……そして優しいのも、匡さんの方だ。