赤ちゃんを授かったら、一途な御曹司に執着溺愛されました


中学二年の春の終わり頃だった。
美織の様子がおかしいと思い始めたのは。

やけに周りの顔色を窺うようになったことを、最初は小学校に上がったからだと捉えていた。環境が変われば性格だって多少は変わって順応していくものだ。

けれど、美織のそれには怯えが隠されているように見え、なんとなくそのまま見過ごせないような何かがあった。

家に顔を出せば当たり前のように俺の膝の上に座ってきたのに、それもなくなり、〝まだ一緒にいたい〟とも強請らなくなった。

成長と言うよりは、過度の遠慮に見えた。

里美さんの話を聞く限りでは学校生活では問題はなさそうだった。
そうなれば、残るは里美さんが夜勤の間預けられている叔父夫婦との関係となる。

いくら美織が生まれた数日後から一週間と空けずに顔を合わせている関係だとしても、俺は他人でしかない。

そんな俺が首を突っ込むのはおかしいとはわかっていても、どうしても見逃せずに押した叔父夫婦の家のインターホン。

逃げ出すように必死にしがみついてきた腕の強さも、俺を確認した途端に一気に涙を溢れさせた顔も、俺は生涯忘れることはできない。


これから明日の朝まで仕事だと言う里美さんと一緒に部屋を出て、美織と車に乗り込む。

本来の予定であれば明日来ることになっていたが、もう少し落ち着いたら連絡すると申し出ると、里美さんもそれがいいと笑顔で頷いてくれた。

午後、滝から入った報告によれば行先も目的もなんの問題もなかったが、なんとなく嫌な胸騒ぎがして、すぐに最低限の仕事だけこなし会社を出た。


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