赤ちゃんを授かったら、一途な御曹司に執着溺愛されました
「でも、事件だとか表面上の事実は思い出しても、そのときの匡さんの気持ちはなにもわかりません。だから……ちゃんと教えて欲しいです」
真っすぐに見つめてくる真剣な眼差しは昔から変わらない。俺が美織のこの顔に弱いことを彼女は知らない。
わざわざ伝えようとは思わなかったし、想いを告げようと決めていた時期を待たず、彼女の気持ちは離れて行ったため、気持ちを言葉にしたことは一度もない。
「少し長い話になるが」
「構いません。匡さんの気持ち、全部聞きたいです」
何かを決意したような、確信したような強い眼差しに、胸の奥がじわりとした熱を持つのを感じながら、視線を進行方向に戻した。
駅近くにあるうちの系列のラグジュアリーホテルで部屋をとった。
自宅は麻里奈のアポなし訪問があるため落ち着かないと考えての選択だったが、エレベーターに乗り込む俺の後ろをついてくる美織があまりに緊張した様子を見せるので「話をするだけだ」と安心するよう声をかける。