赤ちゃんを授かったら、一途な御曹司に執着溺愛されました



「雅弘おじ様もうちの母もそんな雰囲気出してたし、匡さんもその流れに逆らえなかっただけじゃないかな。それに、幼稚園の頃から〝結婚して〟って私が何度もプロポーズしてたから。そのけじめっていうか」
「ええー……そんなこと言い出したらそこらじゅうで保育士が結婚詐欺だとかで訴えられてますよ。男子の初恋相手なんて保育士って相場が決まってるんですから。幼稚園児の求婚なんて誰から見たって無効でしょ」
「それは……まぁ、そうかもしれないけど」
「そんなボランティアみたいな感じで結婚なんてしないでしょ。気持ちがないんだとしたら、それなりの事情があるんだと思いますよ。じゃなきゃ、いくら約束してたからって結婚なんてしませんって。一生の問題ですもん」

さも当然と言わんばかりの相葉くんに、一瞬だけ押し黙ってから「とにかく」とまとめに入る。

「余計なことは考えなくていいの。っていうか、考えさせないで。気になって仕方なくなっちゃうから」

そうじゃなくちゃいけない気がして、わざと強い口調で言い切る。

たしかに彼の言う通りだということに私もとっくに気付いてはいた。でも、この結婚の裏に何か事情があるなんて思ってしまったら、私はそれが一体何なのかをずっとぐるぐると考えてしまうとわかっていたので、可能性を消していただけだ。

好きな人と結婚できた女性は少なくないだろう。でも、その相手が世界的大企業の御曹司だった場合、割合はぐっと減る。きっと、天文学的な確率だ。

何も持っていない私がそこに割り込めただけでラッキーなのだから、それ以上を望むのは欲張りすぎる。

大好きな匡さんと結婚できた上、匡さんも恋愛感情ではないにしても私を思ってはくれている。それだけでいいのだ。

だから、この結婚の裏にある事情は探らなくていい。知れば知るほど私にはきっとたくさんの感情が生まれてしまうから。


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