赤ちゃんを授かったら、一途な御曹司に執着溺愛されました
そこまでは覚えていなかっただけに驚き、思わず声が漏れた。
まだ恋も何も知らなくて無邪気に〝好き〟〝結婚したい〟と口にできていた頃の話だとは言え、匡さんに泥団子制作を手伝わせるなんて……信じられない。
「気にする必要はない。俺が好きで付き合ったことだ」
「でも……すみません」
顔を覆いうつむくとおでこに匡さんの肌がぶつかり、距離感を再認識する。
触れ合える距離にいて、同じ昔話も持っているのに、気持ちはちっとも触れられない。
たまにそれがどうしようもなく悲しくなる時があって、そんな自分を今まではおこがましいと律してきたけれど……。
『想い返して欲しいって思うのは、強欲でもなんでもないと思いますよ。むしろそれが健全じゃないですか? 相手に気持ちがなくても一緒にさえいられればそれでいいなんて、どっかこじらせてるかマゾですよ』
相葉くんの言葉が頭をよぎり、唇を引き結ぶ。
匡さんとの心の距離を感じるたびに悲しくなる。
匡さんに好かれたい。
そんなわがままがむくむくと顔を出すのを、まるでもぐら叩きのように押し込み抑え込んできたのは、大人の女性になりたいと思ったからだったけれど……それが、相葉くんが言っていた〝こじらせてる〟ということになるのだろうか。
実際、私は匡さんに好きと伝えることも、抱きつくこともできなくなってしまった。