赤ちゃんを授かったら、一途な御曹司に執着溺愛されました


だから……昨日だって、言えなかった。

あんなにいちゃいちゃ触れ合った後なのに、好きだと告げたら匡さんがなんて返すのかが怖くて、言えなかった。

ただ盲目的に匡さんの迷惑も考えずに追い掛け回せていたあの頃が、少しだけ羨ましくなった。

「滝さん」

まだテーブル近くにいてくれる滝さんを見上げた。

「はい。なんでしょう?」
「匡さんは、どうして私と結婚なんてしたんでしょうか。昔、流れで婚約しちゃったから仕方なく約束を守っただけにしても、ずいぶん急いでいたように感じて」

なにも大学卒業を待ち望んでいたようなタイミングで結婚しなくてもよかったように思う。

私としては、匡さんがうっかりでも一時の気の迷いであっても結婚してくれた事実は幸運でしかないけれど、冷静に考えれば年齢的にもそこまで急ぐ必要はない。

匡さん本人には怖くて聞けない問いに、滝さんは不思議そうに首を傾げた。

「仕方なくなんて、そんなことはないかと思いますよ。美織様が過ごしやすいようにと色々と匡様がご自身で準備なさっていましたし、お式の段取りもプランナーさんと時間をかけて詰めておられました。見た目にはわかりにくいですが浮かれていたと思います」
「……それはないかと」


< 56 / 248 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop