赤ちゃんを授かったら、一途な御曹司に執着溺愛されました
「結婚ってどういうこと?! 匡くんは麻里奈と結婚してくれるって約束したのに!」
「え……結婚の約束……?」と思わず声を漏らし隣を見る。
滝さんは目をつぶり首を横に何度も振っていた。
視線を戻すと、匡さんはため息をつき、やっぱり首を横に振った。
「そんな約束はした覚えがない。過去を偽装するな」
「でも麻里奈が〝将来、匡くんと結婚したいな〟って言ったら別になにも言わなかった! 沈黙は肯定でしょ! つまり匡くんも同じ気持ちだってことでしょ!」
「子どもの言うことにわざわざ口出しするのも馬鹿馬鹿しいと思っただけだ。幼児が言う〝将来はお父さんと結婚する〟と似たようなものだろ。真面目に取り合うだけ時間の無駄だ」
淡々と言う匡さんに、麻里奈ちゃんの怒りはヒートアップする一方だった。
「全然違うし、匡くんは麻里奈のパパじゃないでしょ! それに、結婚したいって言い出したのは中学の頃だよ。去年だって、留学する前にちゃんと言ったじゃない。留学中の電話でだって何度も……」
そこまで叫ぶように言っていた麻里奈ちゃんがピタッと止まったのは、私と目が合ったからだった。
覗き見というよりも、堂々とカーテンも窓も開けて見ていたので、発見されるのも無理はない。
ここは自宅で、三時のティータイムのリビングだ。そして、麻里奈ちゃんも誰に聞かれても構わないといった声量で会話している。
だから別に隠れる必要もないと思っていたけれど、私を見るなり目を吊り上げて近づいてくる麻里奈ちゃんの勢いに、見つかったらまずかったかもしれないと少しうろたえる。