赤ちゃんを授かったら、一途な御曹司に執着溺愛されました
あのとき、運転席に座っていたのは母じゃなかった。あれは、匡さんの家の車だ。
つまり、私は匡さんに病院に連れて行ってもらったことになる。
そもそも、おでこを切ったのってどうしてだっけ……と頭を悩ませていたとき、麻里奈ちゃんが、ふんと息を漏らした。
「そんなのたまたまでしょ。匡くんはいつだってクールだし怖がりなんかじゃないし。っていうか、女の子が顔に怪我するとか信じられない。野蛮すぎるし、そもそも今の話って本当なの? 嘘ついてない?」
「本当だけど……どうしてそう思うの?」
「匡くんを想うあまり過去を美化してさらに偽装してるだけなんじゃないかと思って。〝私ってこんな大事にされてたんだから〟って麻里奈に喧嘩売ってるなら無駄だから。匡くんは麻里奈にはそれ以上に優しいもん」
ふんぞり返られ、思わず黙る。
麻里奈ちゃんは、あくまでも私の優位に立ちたいだけであって、匡さんの話題で盛り上がりたいわけではないらしい。
せっかく匡さんトークができる相手なのにそれを残念に思いながらも、あまり不機嫌にするのもよくない気がして話題を変えようとしたのだけれど。
「あの、麻里奈ちゃん」
「は? いきなり〝ちゃん〟呼びとかありえないんだけど。ずっと思ってたけど、麻里奈に対して敬語も使わないし、まるで自分が麻里奈と対等だと思っているような態度で接してくるけどそういうのおかしいって気付かない? 匡くんの奥さん失格でしょ」