赤ちゃんを授かったら、一途な御曹司に執着溺愛されました
桧山家には、雅弘おじ様の部屋やいくつかの客間、納戸やリビングダイニングの他に、匡さんと私、それぞれの自室と夫婦の寝室がある。
寝室と言ってもただベッドが置いてあるだけではなく、ソファやローテーブルに書き物やパソコン作業ができるようなデスク、壁掛けのテレビなどもありわざわざ自室に行かなくても事足りるので、私はリビング以外では寝室にいることが多い。
ふたり分の服が収納してあるウォークインクローゼットも寝室から繋がっているため、自室として与えてもらっている部屋はほとんど使用したことがない。
一方の匡さんは、たまに休日に仕事が入ったりすると自室にこもるけれど、それもせいぜい一、二時間。それ以外は、ほとんど私がいる場所に一緒にいる。
空間は共にしても、ずっと話しているわけではない。本を読んだりテレビを見たり、各々が好きに過ごしていて、何か話題があれば話すくらいだ。
それでも気まずく思わないのは、二十二年という長い時間が原因だろう。物心ついた頃には一緒にいるのが当たり前になっていた。
でも、六年前、話し方や呼び方を変えたあたりからは匡さんに距離を感じるようになり、それまでと同じようなどうでもいい話題は振れなくなってしまったけれど。
匡さんはあまり人との繋がりを望んでいないように見えるので、自室があると知った時にはてっきり顔を合わせるのは食事くらいかもしれないと悲しくなったりもした。
でも、フタを開けて見れば全然そんなことはなく、想像していた以上に一緒にいる時間が多くて安心した。
結婚したのだからと、匡さんなりに気を遣ってくれているのかもしれない。匡さんは、私の夢見がちな性格も昔からよく知っている。