コイビト(仮)

第1話「コイビト」になって

「彼女欲しいーーーーー!!!!!」
天を仰ぎながら全力で叫ぶ。その声量に驚いたのか、隣にいた日向は昼食のパンを落としかけていた。
「うるせぇな…いきなり叫ぶんじゃねぇよ」
見事にパンをキャッチした友人は、こちらをじろりと睨んでくる。
「いやすまん。声を落としたつもりだったんだがな…」
「いやどこがだよ。普通にうるさかったぞ声量オバケ」
「そりゃ叫びたくもなるだろ!」
感情のままにグイッと顔を近づけると、目を丸くした日向の顔が至近距離にあった。
こいつの相変わらず綺麗な顔を見ていると、何を話したかったのか忘れてしまう。
近すぎた顔を離すと、ようやく思い出すことができた。
「だって俺らもう高2だぜ!?彼女の1人や2人くらいできててもおかしくないだろ!」
「そうか…?」
「そうだよ!なのにできてないってどういうことだ!?」
「そりゃお前…ここが男子校だからだろ…」
ため息を吐きながら呆れた顔でこっちを見てくる。今更当たり前のことを、という目だ。
「…んあー、ごもっともな意見だね…」
苦笑いで返すと、再度ため息を吐かれる。そんなに呆れなくてもいいとは思うが、こいつに言われるまで男子校だということを忘れていたので、そんな反応をされても当たり前だ。
「…彼女欲しー」
気を取り直してもう一度言う。今度は叫ぶのではなく呟いて。
「…そんなにか?」
「だって青春したいだろ」
「ナンパでもしたらどうだ?」
こいつは俺の事を馬鹿にしているのだろうか。
確かに日向の顔の良さなら確実にOKを貰えるだろう。だがイケメンでもない俺がナンパをしたところで、相手にされないのがオチだ。
まぁ日向のことだから悪気は無いと思いたい。
「ナンパで得た愛は本当の愛じゃないと思ってる」
「伊月もクサいこと言うんだな」
「別にそんなこと言ったつもりはねぇけど…」
と、ここである疑問が浮かぶ。素朴な疑問だが、とても大事なことだ。
「じゃあ男子校で彼女いる奴ってどこで女見つけてきたんだ…?」
「あー…共学の友達からの紹介とか…?」
「なるほどな…俺共学に友達居ねぇからな」
自分で言ってて何だか悲しくなってくる。別に友達が全然いない訳じゃない。
俺は狭く深くの友達関係を大事にしていたというだけだ。
1人でそんなことを考えながら隣の日向を見る。日向はもうこの話題に飽きてしまったのか、食事を再開している。
それにしても、よく食べるなぁと思う。
購買で買った弁当2つに惣菜パンを3つ。こいつのどこにそんなに入るのか、毎回気になってしょうがない。
それはともかく、日向みたいに食べっぷりがすごい奴に自分の手料理を食べて貰えるというのは、嬉しいことだろうな、と思う。
日向に手料理を作ってあげたことはあまりないが。
そんな日向の横顔を見ていると、ピンと閃くものがあった。
「日向!俺と付き合ってくれ!」
「…は?」
俺の告白じみた言葉に、今までに見たことがないほど驚いている。
「…待っ、てくれ…理解が追いつかない」
「ん〜そうだなぁ〜」
こいつなら俺の意図をすぐに理解してくれると思ったんだが、やはり無理だったらしい。
「俺に彼女ができないんだったら、彼氏を作っちゃえばいいんじゃね?と思った訳よ」
「…本音は?」
「俺に彼女が出来た時の為に練習台になって欲しい」
我ながら最低な考えだと思うので、何をされようが、何を言われようが文句は言えない。
「クソみてぇな考えだな」
「仰る通りでございます…」
「いいぞ、承諾してやる」
「お前は嫌だとは思うがそこをなんとか…え、いいの?」
「ああ」
まさか承諾されるとは思っていなかったので、どういう反応をしたらいいのか分からない。
こいつは正真正銘「神」なのかもしれないと思うほどだ。
「え、ほんとにいいの…?」

「俺がいいって言ってるんだからいいだろ」
「マジか!ありがと!恩に着る!」
日向の手を握りしめ、上下に振る。俺の異常な反応に少し引いていた。
「よし!今日から俺たちはコイビト(仮)だ!」
「…(仮)いるのか?」
「ん〜、いるだろ、一応」
何故そこを気にするのかよく分からないが、取り敢えず俺にも恋人が出来たことを素直に喜ぶ。性別は男だが。
「つーわけで、今日から恋人としてよろしくな!日向!」
笑顔で手を差し出すと、日向も笑いながら手を握り返してきた。
「ああ、よろしくな。伊月」
 
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