コイビト(仮)

第2話 報告します!

ピピピッ、ピピピッ、というアラームの音が部屋に鳴り響く。いつまで経ってもこの音に慣れることは出来ない。
寝ぼけ眼でスマホを手に取り、アラームをオフにする。
少しの間枕に顔を埋め、ゆっくりと起き上がる。欠伸をしながらカーテンを開けるとようやく目が覚めてきた。
「…んあー、ヤバいな…昨日の俺…」
それと同時に昨日の自分の言動を思い出してきた。なんで勢いだけであんなことを言ってしまったのかと後悔する。
どんなテンションであれば友人に「付き合ってぇ♡」と言えるのだろうか。
物凄くなかった事にしたい。が、それは日向のせっかくの好意を無下にしてしまうので絶対に避けたい。
「男に二言は無いって言うし…あいつが飽きるまで待つか…」
結局はそれしか手がないのだ。まぁ面白そうだから全然いいのだが。
「…学校行く準備するか」
もう一度欠伸をし、顔を洗うために1階へと降りて行った。



「おっはー!日向!」
「ああ。おはよ、伊月」
玄関の前で待機していた日向に元気よく挨拶をすると、微笑みながら挨拶を返してくれた。
相変わらずツラがいい。こんな笑みを見せられたら、男だってイチコロだろう。俺らは一応「恋人」だが。
「…あり?もしかして眠い?」
「ちょっとな。夜更かしして」
「どーせゲームでもしてたんだろ?このゲーム狂め」
「別にいいだろ…周回してたらやめ時が分からなくなったんだよ」
くあっと大きな欠伸を一つする。イケメンは大口開けてもイケメンなんだな、と感心してしまう。
1人納得したように日向の顔を見つめていると、何を思ったのかは分からないが、いきなり手を握られる。
「うおっ!な、なんだよ、いきなり…!」
「あ?ずっと見てたから手ぇ繋ぎたいのかと思っんだけど…違った?」
「全然違ぇよ!繋ぎたいわけ…」
ない、と言いかけて言葉を止める。そういえば俺らは恋人同士だった。
ということは、こいつは俺の恋人ごっこに付き合ってくれているという訳か。
「…いや、手繋ぎたいなぁって思ってたところ♡」
左手を口元に当て、上目遣いで日向を見る。俺の精一杯のぶりっ子ポーズだ。
それを見た日向は口元を押さえながら、サッと目を逸らす。流石に気持ち悪かったのかもしれない。
「あ、ごめん…キモかったよな?」
「いや?可愛いなって思っただけ」
口元を覆っていた手を離し、そう言ってふっと笑う。その笑みに本気で惚れそうになってしまった。というか、イケメンに笑いかけられたら性別関係なく惚れてしまうと思う。
「そ、その顔はズルくね?」
「その顔ってどんな顔?」
今度はいたずらっぽくニヤッと笑う。その笑みにまた心臓を打ち抜かれてしまった。こいつは自分がイケメンだってことを自覚してる。絶対に。
「うぁ…えっと、そうだ…いっっでぇ!」
なんと言えばいいか分からずドギマギしていると、背中に強い痛みが走る。
叩かれたところを擦りながら、後ろをキッと睨みつけた。こんなことをするのは一人しかいない。
「おっはよー!伊月!日向もおはよ!」
「はよ、千影。相変わらず元気だな」
「おう!俺はいつでも元気…あだぁ!」
「てめぇ!毎朝毎朝人の背中バシバシ叩いてんじゃねぇよ!」
呑気に日向と話し始めた千影の頭に一発食らわせる。
こいつは手加減という言葉を知らないのか、際限なく叩いてくるので、仕返ししたってバチは当たらないだろう。
「いってぇ…伊月だって叩いてんじゃねぇか」
「俺はそんなに叩いたことねぇだろ!」
ニヤニヤと笑みを浮かべている千景をもう1発殴ろうとするが、避けられてしまう。
殴り掛かるのに失敗してイライラしていると、後ろから声をかけられた。
「また喧嘩?仲良いねぇ」
「あ、雅弥。おはよ」
おはよう、と言ってにっこりと笑う。相変わらず綺麗な顔だ。日向も綺麗な顔をしているが、こいつは耽美って感じがする。
「相変わらず綺麗な顔してんなぁ」
「ふふ。そう?ありがと」
そう言ってまたにっこりと笑った。本当に笑顔が似合う顔だなと思う。それに、雅弥の笑顔を見てるとなんだかほっとする。
「話変えるけどさぁ…お前ら手ぇ繋いでなかった?」
「繋いでたけど…なんか文句でもあんのかよ?」
「いや、文句はねぇよ。なんかあったんかなぁって、思っただけ」
まさか見られてたとは思わなかった。
まぁ、あれだけ堂々と繋いでいたのだから、見たくなくても見てしまうだろう。特に気にしていなかったが。
「あ〜、なんかあったけど…。日向、言ってもいいのか?」
「別に構わねぇよ。近いうちに言うつもりだっただろ」
「え〜何?なんか怖い…まぁ大体想像はつくけど」
「俺全然分かんない…」
口々に意見を言う2人を横目に、日向のことをぐいっと引き寄せる。
自分の身長と同じくらいになった日向の肩を抱き、宣言する。
「俺ら、付き合うことになりました!!」
俺の言葉の意味が理解できなかったのか、2人してキョトンとした顔をしている。だが、みるみるうちに驚きの表情に変わっていく。
「「はぁぁぁぁぁぁあ!?!?」」
雅弥と千景の叫び声が、朝の通学路に響いていった。
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