ママの手料理 Ⅲ
瞬時に背中合わせになった2人は、円状に連なる怪盗フェニックスに睨みを効かせる。


「ごめん、今のは完全に僕のせいだね」


背中越しに、あははと能天気に笑うリーダーの声が聞こえた。


「…罪深い男だな」


「ごめんってば」


自分達よりも遥かに背の高い男達に威圧されでも尚、2人はいつもの様な会話を続ける。



そして。


「あ、3秒タンマ」


そのまま体勢を低くした壱は、ある事に気が付いて声をあげた。


「そういや腹減らね?俺、クソ狂犬から貰ったチョコあるんだよな、食べるか?」


質問しておいて返事も待たず、壱はゴソゴソと尻ポケットを漁り始めた。


「この状況でチョコレート?…まあ、うん、ひとかじりくらいなら」


湊の突っ込みは、これまでで1番的を射ていた。


「腹が減ったら戦は出来ぬって言うだろ」


どう考えても隙だらけのこの状況で、こちらに1歩も近づいてこない怪盗フェニックスの皆様には感謝しかない。


「ほらよ、ミント味のチョコらしい。半分溶けてるけど気にすんな」


半分に折り畳んでポケットに押し込んでおいたチョコレートは、激しい闘いのせいで若干溶けてしまっていた。


「…ああ、かなり溶けてる、けど、ありがとう」


一瞬躊躇した様子を見せたリーダーは、そっと溶けかかったチョコレートを手で折って口に入れた。
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