ママの手料理 Ⅲ
ずっと昔、血に汚れた服を身にまとい、赤く染まった視界に恐れおののきながらさまよっていた自分を拾ってくれたのは湊だった。


手首にあった虐待の痕を隠せる様にとリストバンドを貸してくれたのは仁で、感情の起伏がない航海に対して毎日懲りずに話し掛けてくれたのは大也。


色が分からないと初めて伝えた時、大金をはたいて色覚調整眼鏡を買ってくれたのは銀河と琥珀で。


家の勝手を教えてくれたのは下僕の笑美で、学校に行った事がなかった自分にイチから勉強を教えてくれたのは伊織。


そして、誰よりもこの家族を愛していて、傍に居るだけで凍結した感情が溶け出していくような温かな感覚と幸せを与えてくれたのは、紫苑だった。



色覚調整眼鏡越しに初めて空の色を知った時、それと同時に自分の心も華やかに色付いた気がした。


彼らは全員大切な仲間なのに、それなのに。


この恥ずかしさと惨めさを分かってくれる人は、最早銀河しか居ない。



「嘘ばっかりついて…許せないです」


湊に家族が居るのなら、怪盗になるなんていう自己満足的行為をしないでずっと幸せに過ごしていれば良かったではないか。


きっと彼は、自分とは真逆の人生を辿ってきた航海達を保護する傍ら、心の中では嘲笑っていたのだろう。


ただ善人ぶって、家族だなんだと言って結束を高めて…そんなの、単なるエゴでしかない。
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