ママの手料理 Ⅲ
本当は大好きで尊敬しているはずの湊の事を侮辱する様な内容ばかりが頭の中に浮かんできて、航海は混乱していた。


自分が湊に嫉妬している事は分かっている。


航海が親から与えられなかった幸せを手にして、もう笑えなくなった自分に代わって沢山笑って。


…だから、自分はこんなにも駄目なんだ。



「…あぁ、我慢の限界です」


ぼんやりとそんな事を考えていた航海は、自分の爪が手のひらに食い込む感覚で我に返った。


ゆっくりと両手を開くと、爪が食い込んだ所から少量出血していて。


「それもこれも全部、僕をこんなに惨めな思いにさせたのが悪いんですからね」





そうですよね、湊さん。





もう、戸惑いはなかった。


目の前に現れた小柄なアメリカ人男性を無表情で見つめた航海は、ゆっくりと色覚調整眼鏡を外した。


いつかの二の舞にならないよう、綺麗に畳んで胸ポケットにしまう。


続けて腰から引き抜いたのは、日本から持参した植木バサミ。


それを見た瞬間に男性の表情が強ばったけれど、全ての景色が白黒に見えている航海にとってはそんな事など関係なかった。


「ちゃっちゃと済ませますよ、いいですね」


自分達が使っている小型ナイフではなく、出刃包丁と勘違いする程の大きな刃物を取り出した男は、叫びながらこちらへ突進してきた。
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