ママの手料理 Ⅲ
「……、うるさい、です」


瞬時にしゃがんで最初の攻撃を避けた航海は、くるりと振り返って男の腕をハサミでわしずかみにする。


「卑怯だなんて思わないで下さいね、そちらがティアラを盗んだのが悪いんですから」


右手から左手に持ち替えられた大型ナイフが、航海の腕を切り裂く。


着ていた長袖の袖が地面に落ち、ナイフで切られたところからは血がダラダラと流れ出して。


(…、)


自分の腕から灰色の液体が流れ出るのを目視した航海は、口を横に開いた。


「あーあ、せっかくの洋服が台無しです」


その言葉を言い終わるやいなや、航海は手に持った植木バサミにありったけの力を込めた。


グチュ、と嫌な音がして、敵の右腕から血が吹き出る。


その血は真っ直ぐに航海の目に飛んできて、余りの痛さに小柄な男はしゃがみ込んで喚き始めた。



しかし、そんな声は雑音にしか聞こえない。


ゆっくりと瞬きを繰り返した航海の目は、血を塗りたくったような赤に染まっていたからである。


「…あ、」


最後にもう一度ハサミに力を入れた航海は、しゃがんだままの男の顎に強烈なパンチを繰り出した。


嫌な音がエレベーターホールに響き渡り、敵はその場に寝転がったまま動かなくなって。


そして、手をパンパンと叩いて立ち上がった航海は、おもむろに無線機の電源を付け。


「銀河さん、聞こえますか?」


車の中でパソコンを操作しているであろうハッカーの名前を呼んだ。
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