ママの手料理 Ⅲ
説得
「こっわ!サイコパス怖!」
貿易会社の17階に駒を進めたばかりの俺ー伊藤 大也ーは、無線機から聞こえてきた航海の低い声を聞いて身震いをした。
先程から航海と銀子ちゃんの会話は聞いていたけれど、一体何なんだ。
いきなり惨めになるような台詞を言って欲しいと頼んだり、その要求通りにかなりの暴言を吐いたり。
航海が覚醒してサイコパスに変貌したのは良いけれど、余りの恐怖にイヤホン越しに魂を吸い取られそうだった。
盗みに入ってから僅か15分後、お互いの利益の為にと別行動を始めたのは本当に良い決断だったと思う。
「取り敢えず、俺もこの人倒さないと」
銀子ちゃんから分け与えられたミント味のチョコレートをパクリと口にくわえた俺は、生き永らえていた怪盗フェニックスの姿を捉えてそう呟いた。
(航海に負けてられないもんね!)
よし、と気合を入れた俺は、チョコレートを舐めながら新たな敵であるアフロヘアの男に近付き。
「え」
ある事に気がついた。
(嘘やん)
その男の顔立ち、整った鼻筋と彫りの深い深緑の目、首筋を流れる汗、筋肉質な長身の身体。
それら全てが、
「待って!?超絶タイプなんですけど!?信じらんない!」
俺の求める男性理想像に当てはまっていたのである。