ママの手料理 Ⅲ
いや、琥珀の事を愛しているのには変わりはないのだけれど、流石にこれは反則だ。


「日本人なら琥珀みたいな人が大好きなんだけどさ、俺アメリカ人ならこういう人タイプだわ!運命の出会いしちゃったよ俺!」


誰も聞いていないにも関わらず、興奮してしまった俺はぎゃあぎゃあと騒いだ。


再び闘いの場でこんな運命的な出会いをするなんて、向こう数十年は起こらないだろう。


「この人パンチするとか無理無理!ねえ彼氏いる?んー、ボーイフレンド!」


完全に戦意を引っ込めた俺は、小走りにその人に駆け寄って行って下から男の顔を覗き込む。


(下アングルも尊い!)


この人を味方に引き入れて一緒に帰国したいわ、と考えていた矢先、


「I have a girlfriend(彼女が居ます)」


アフロヘア男は、流暢なー当たり前だー英語で返してきた。



「…え」


瞬間、俺の思考が一瞬停止する。


自分の耳が捉えた音は、現実のものだろうか。


(彼女居るの!?まじかよ…)


『敵を口説くな馬鹿野郎』


『大也、此処は合コンの場所じゃないよ…』


連続して銀子ちゃんと湊が嘆く声までも聞こえてきて、俺は大袈裟に頬を手で押さえた。


(無線機オフにするの忘れてた…しかも俺、振られたって認識で合ってる?)


一目惚れして猛アタックした勇気すら、誰も褒めてくれないなんて。
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