ママの手料理 Ⅲ
「お前、本気で言ってんのかよ」


「だって、壱なら闘えるでしょう?航海だって、血を目に入れちゃえば余裕だよ。…まあ、琥珀が家族を見捨ててでも参加したくないならしなければいい話だし」


舌打ちをした現役警察官に向かって仁さんは余裕そうな笑みを浮かべ、事もあろうかそのままの笑みを浮かべたまま喧嘩を吹っ掛けた。


「お前っ、ふざけんのも大概にしろ!死にやがれゴミクズ野郎!」


どうやら“家族を見捨てて”という部分が、琥珀の怒りに火をつけたらしい。


瞬時にその喧嘩を買い、ガタンと椅子を蹴って立ち上がった猛獣を慣れた手つきで止めたのは、


「はーい深呼吸深呼吸、琥珀は俺とニコイチだから参加するもんねー。仁の言う事なんて聞かなくていいから、ここ座ってー?もし今喧嘩したら、罰として俺とキスだよー?」


何を考えているんだか、下心丸出しの笑顔を浮かべた大也だった。


彼の琥珀に対する恋心は今も健在のはずなのに、その感情を罰として乱用してしまって良いのだろうか。


けれど、今にも仁さんに殴り掛かりそうな勢いだった琥珀は、大也になだめられて渋々椅子に座り直し。


「あー俺とのキスはお預けだぁ……」


彼がまた暴れないように、彼の膝を自分の足でがっちりとホールドし始めた大也は、自分で言っていたにも関わらず残念そうに頬を膨らませた。
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