ママの手料理 Ⅲ
「…よく知ってんじゃん、俺の事」


ゆっくりと顔を上げた俺は目を細め、相手に瞬きをする隙も与えずに間を詰めると、その胸目掛けて垂直にナイフを差し込んだ。





「死んでくれる?」





うめき声1つあげず、その場に卒倒した男を蹴り飛ばした俺は、胸に刺さったままのナイフを引き抜いてその場を後にした。


(航海ー、俺も覚醒しちゃったよ)


全く疲れを感じない、今なら何人相手でも勝てる自信がある。


それに、初対面の日本人男性に向かっていきなり怪物だなんて、あの男にはデリカシーというものが無かったようだ。


「早く45階行きたいなぁ」


階段で1つ上の階に辿り着いた俺は、壁に書かれた18という数字を見て大きく伸びをした。


まだまだ、先は長い。









「お前さ、此処でナンパするなんて気狂ってんじゃねーの?」


「お口が達者なことで」


「本当の事言ってるだけだろーが」


あの後、18階で琥珀を見つけた俺はその階を彼に任せ、20階に足を踏み入れた。


そこに居たのは壱で、彼は俺の顔を見た瞬間から強烈な言葉で弄ってきた。


「でももういい、あの男彼女居たっぽいし俺の事怪物呼ばわりしたし、何より俺には琥珀が居るから」


「へいへい」


この話題になる前に話を聞いたところ、元々壱は湊と一緒にこの階で闘っていたらしい。
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