ママの手料理 Ⅲ
誰も何も話さないこの雰囲気が気まずすぎて、


「ほら、だって伊織の刑期は3年だったじゃん?もうあれから3年経ったし、もう出所したんじゃ」


私は笑顔を取り繕って話を再開したけれど、


「あー、確かにこの間であいつの刑期期間は終わった。だが、あいつは自身の意向で未だにムショの中に居るらしい」


琥珀の冷え切った声に、口を閉ざすしか無かった。


「それは個人の意向だから、もういつでも社会復帰は可能らしいが…。中森から聞いたが、あいつの中ではまだ反省が足りないんだとよ」


ぶっきらぼうに吐き出した警察官は、ゆっくりと体勢を変えて前に向き直った。


彼の言葉は、伊織が私達と一緒に渡米出来ないという事を暗示していた。


(まだ、私達に合わせる顔がないって思ってるのかな…)


そっか、と呟いて下唇を噛みながら、私は未だに暗い独房の中で過ごしている裏切り者に思いを馳せた。


3年前、彼が私に対してした事は絶対に許すべきものではないと思っている。


信じていたのに簡単に私を裏切り誘拐し、挙句の果てに首と額まで傷付けられた。


あれから長い時間が経った今、私は毎日ファンデーションとコンシーラーを総動員して薄く残ってしまった傷痕を消し続けている。
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