ママの手料理 Ⅲ
だけど、


『私達は、養子縁組よりも強い絆で結ばれてるんだから!』


紫苑ちゃんのひび割れた大声が、脳内再生された。



そうだ、俺達は家族だ。


そして仁は、養子縁組によって俺と法的に兄弟になった、唯一の人物。




「ねえ死なないで、兄ちゃん…!」




俺は、初めてその名を呼んだ。


養子縁組をされた当初、仁は自分を兄扱いして欲しくてそう呼ぶようにせがんできたけれど、俺はそれを請け負わなかった。


でも良く考えたら、彼は俺のたった1人の法的に認められた家族であり、兄だった。



泣きじゃくりながらその名を呼んだ瞬間、


「っ……!」


閉じかかっていた仁の目が、驚いた様に大きく見開かれた。


弱い呼吸を繰り返しながら、彼は満杯の涙を浮かべて。


幸せそうに微かに口角を上げた兄は、目尻から美しい一筋の線を流しながらゆっくりと目を閉じ。


「えっ、……」







動かなくなった。







握っていた手から力が抜け、ジャケットの下から感じる心臓の鼓動はいつの間にか感じられなくなっていて。


「…待って、仁、仁…仁!壱!」


慌てて彼の胸に手を当てるものの、自分の心臓の音が激しすぎてこれが誰の心臓の音か分からない。
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