ママの手料理 Ⅲ
自分は仁を否定してばっかりで、さっきなんて酷過ぎる発言をして壱を傷付けてしまったけれど。


彼はちゃんと、俺を見てくれていたんだ。


仁が言いたい事があると言ってわざわざ現れたのは、俺の白い髪を嫌っていない事を伝える為だったのだろうか。


どう考えても、いつまでもその事を根に持っていた俺が悪いのに、仁はこういう所だけはしっかりしていて。


「…ごめんね、仁っ……」


流行の最先端だからね、とか何とか言って今日も付けていた花柄のリストバンドは、自身の血によって見る影もなくなっていた。



ああ、もう闘える精神状態じゃないよ。


まさか怪盗mirageが死ぬなんて、誰が想像しただろうか。


ごめんね、紫苑ちゃん。


皆で一緒に帰るって約束したのに、叶わなくなっちゃった。



暫くその場で静かに泣き続けていた俺は、零れ落ちる涙を手で拭った。


涙と鼻水でぐちゃぐちゃな顔は、拭いても拭いても元に戻らない。


こんな状態だと、敵に見つかったら即死だな…、なんて、他人事の様に考えていた矢先。


(…?)


辺りに火薬の匂いが立ちこめ、俺は顔を上げた。


それと同時に左足首に違和感を覚え、ぼーっとした頭で自分の足を見下ろす。
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