ママの手料理 Ⅲ
琥珀が瞠目してから男が息絶えるまでの時間、およそ2分。


琥珀が逝くはずだった世界へ旅立ったのは敵で、自分はまだ生き永らえている。



台風のように現れ、強烈な風を巻き起こしながらスキンヘッド男を殺した彼は、返り血で染まった手をハンカチで丁寧に拭きながらこちらを振り返った。


前までは琥珀の顔すら見れない程に情緒不安定で全てに怯えていたそいつの瞳に映るのは、目を見開いて固まる自分の姿。


そんな自分を見つめた伊織は、間に合った…、と瞳を潤ませ。



「琥珀…!大丈夫?助けに来たよ…!」



数年ぶりに、琥珀の前でいつかと同じ笑顔を見せた。




「お前、…何で此処に、」


それから数秒後、状況理解に苦戦していた琥珀が吐き出したのは素朴な疑問だった。


「銀河にパソコン渡した後、ちょっと色々あってね…取り敢えず、鎖解くからちょっと待ってて」


しかし、どうやら彼はそれどころではないらしく、琥珀の目の前にしゃがむと懐からおもむろに巾着袋を取り出した。


そこから次々に出てくるのは大型ハサミやらカッターやらペンチやら、自分に巻き付いている縄と鎖を切る為の道具一式。


「…何でお前そんなもん持ってんだよ、」


遂に小型ノコギリが巾着袋から出てきたのを発見した琥珀は、純粋な驚きからそう呟いた。
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