ママの手料理 Ⅲ
いや空耳に決まっている、琥珀達が此処に来た時にはクレーン車なんて見当たらなかったのだから……



「…え」


窓の端を掴み、身体の半分を外に出した伊織の横。


窓から身を乗り出した琥珀は、自分の顔面からポーカーフェイスが崩れ落ちたのを感じた。


「…何で、」



何と、自分達の居る17階の真下に、人が乗れるカゴの付いたクレーン車が待機していたのである。


(ちょっと待てよ…)


もしや、伊織はこのクレーン車からこの会社に飛び移り、窓を割って入ってきたというのか。


もしそうなら、彼はかなりの怖いもの知らずである。


(おいおい、まじかよ)


琥珀は、隣に居る伊織と目と鼻の先にあるクレーン車を交互に眺めた。



(ん?)


そして、こちらへ近付いてくるクレーン車のカゴに乗っている人物が1人。


二の腕のところでちぎれた片袖の下から包帯が巻かれた痛々しい手を振るその人の胸元には、見慣れた眼鏡がぶら下がっていた。


「あー、琥珀さんじゃないですか!無線機にも応答しないし、どうしたのかと思ってたんですよー」


俺の置かれていた状況を知らない彼は、呑気にそんな事を言って手招きをしている。




そう、航海がクレーン車に乗っていたのだ。
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