ママの手料理 Ⅲ
必死で嗚咽を堪え、嬉し涙を袖で拭いている私の目に映ったのは、


｢あっぶねぇー、チビるかと思ったぞ…そんなに大量の血糊使うなんて聞いてなかったからな｣


大きく息を吐き、安心した様に膝に手をつく銀ちゃんの姿と、


｢本当に死んだのかと思ったのに…卑怯ですね、心臓に悪いですよ｣


頬をポリポリと掻きながら、マイナスともプラスとも取れる言葉を吐き出した航海の姿。



言葉や態度はきつくて回りくどいけれど、皆が仁さんの帰還を心から喜んでいる事は容易に伝わってくる。



そんな中、


｢……ば、っ…｣


湊さんから身体を離した弟が、兄に向かって口を開いた。


多分、馬鹿野郎、とでも言いたかったのだと思う。


けれど、彼は言葉を最後まで紡ぐ事すら出来ず。


｢っ……、！｣


覚束無い足取りで琥珀の隣に移動した彼は俯いて肘で目元を覆い、嗚咽を漏らしながらしゃがみ込んだ。


その涙は、私と同じで喜びから来ているはず。


自分の目の前で死んだはずの仲間が生きていたのだ、その喜びと安心感は想像にかたくない。



｢っ…、｣


その姿を見た兄は、一瞬驚いたように目を丸くした。


｢ごめんね、まさか大也が泣くなんて思ってなくて｣


しかしすぐにいつもの表情を貼り付けた彼は、実の弟に対して心底申し訳なさそうに謝る。
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