ママの手料理 Ⅲ
「…今、何か聞こえなかった、?」
頬を押さえてソファーに崩れ落ちる湊パパを眺めながら、私は思った事を口に出す。
その音が聞こえたのは私だけではなかったようで、
「お前何か押したか?」
「何も押してないよ、疑わないでええぇ」
檻の外側では、琥珀と大也がそんな会話をしていた。
(何だったんだろう、今の)
緊張から出る手汗を自分の服で拭きつつ、そんな事を考えていると。
「おまっ、何押した!?それ何だよ、何のボタンだ!?」
先程殴った湊パパが手にしていた何かを奪い取り、目の色を変えて詰め寄る壱さんが目に入った。
彼が握っているのは小さな黒い長方形の物体で、真ん中には赤いボタンのようなものが付いている。
「何、それ…」
答えを聞く前から、自分の声が震え始めているのが分かる。
だって、普通こういうシチュエーションで出てくるボタンは…。
「爆弾ですよ。小さいですが威力は強大です。この建物に居る限り、まず助からないでしょう」
殴られても尚ペラペラと話し続ける湊パパを、本気で恨んだ。
「ひっ、……!」
「爆弾!?何処に付けたんですか、あと何分で爆発しますか!?」
視界が暗くなる程の衝撃と恐怖に見舞われた私とは真逆で、赤い目を最大限まで見開いた航海が叫んで私の目の前を風の如く駆け抜けた。