ママの手料理 Ⅲ
伊織の表情が強ばったのに気づいているのか否か、彼女は至って真面目な顔をして、その手紙とやらを鉄格子の隙間から差し出してきた。


「…や、受け取れないよそんなの…。多分俺の事貶す内容しか書かれてないと思うし、」



3年前に比べて、伊織は信じられない程悲観的思考の沼に浸かってしまっていた。


昨夜、成長した彼女がどんな思いで筆をとったかも知らず、ただ主観だけで拒否しようとする伊織に、


「ちょっと、女の子からの手紙くらい受け取って下さい。ラブレターって可能性もなくはないんですから」


新米警察官は、むすっとした顔で地面に手紙を置いた。


「伊織さんが反省してる姿、私も琥珀さんもずっと見続けてきました。期間が終わったのにわざわざ刑務所に残る選択をしたのだって、もう他の人達の耳にも届いてるはずなんです」


唇をとんがらせながら、彼女は伊織の揺れる瞳を真っ直ぐに見て言葉を紡ぐ。


「紫苑ちゃんがどれだけ心が綺麗で優しい子か、伊織さんなら分かりますよね?…読むだけ、読んであげて下さい」


骨の髄まで震える程の恐怖が、手紙だけでこうなるのなら皆と再会した時は卒倒するかもしれないと悟った程の緊張が、少しずつ溶けていくのが分かる。


「………」


黙って小刻みに揺れる手を伸ばし、床に置かれた封筒を手に取ると。


「良く頑張りました!それじゃあ私は帰りますね!今度はゆっくり話しましょーう!」


中森は満足気に微笑み、そのまま刑務所を出て行ってしまった。



残された伊織は、最早住み慣れた空間と化した牢屋の壁に頭をつけ。


そのまま、紫苑が書いた手紙をしばらく見つめていた。



「……よし、」


そして数分後、意を決した彼は深呼吸をし、糊付けされた封を綺麗にはがしていった。
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