ママの手料理 Ⅲ
「終わった……」
頭の中でこだましていた銃撃音が消え失せた頃、誰かがぽつりとそう呟くのが聞こえた。
「さっき、お父様は爆弾がテーブルの裏にあるって言ってたよね?爆発までの残り時間が分からないから、今すぐ逃げよう」
いつだったか、ホテルで能面の様な顔で話し込んでいた銀子ちゃんと航海は、死んだ魚の様な目をしていた。
しかし、それよりも感情のこもらない冷たい目でじっと肉親を見つめていたリーダーは、ふっと顔を上げると手を打って指示出しをした。
正直、俺は自分の肉親を見た事がないから親がどんなものなのか分からない。
けれど、俺がもしも両親に会えたら多少は喜ぶと思うし、死んだら泣くと思う。
なのに湊の場合は一切そんな感情を見せていなくて、彼の家族がどれ程までに冷え切った上辺だけの関係だったのかは、頭の悪い俺でも理解が出来た。
「ああ、逃げよう」
リーダーの言葉に賛成した琥珀が颯爽と身を翻し、その反動で自分の手が彼の袖から離れる。
(えっ?)
ぱちぱちと瞬きを繰り返した俺は、慌てて琥珀の袖を掴み直した。
「待って!何言ってるの、紫苑ちゃん閉じ込められてるんだよ?紫苑ちゃんが逃げれないじゃん!」
今度は、ちょっとやそっとでは手を離したりしない。