ママの手料理 Ⅲ
両手が動かなくて自力ではその体勢すら変えられないくせに、そのいたずらっ子のような顔はやけに眩しくて。


「死んだら結婚、生き延びたら…皆でパンケーキだもんね」


涙目のまま私と琥珀に向かって微笑んだ大也は、ありがとう、と小さく呟いて琥珀の肩に顔を乗っけた。



「お前も此処に留まるのか?」


「当たり前です。紫苑さんが逃げれない状況で、1人だけ逃げるなんて人間のクズですので」


「いや、言い方よ…」


湊パパの亡骸が横たわるソファーの影では、壱さんと航海が仲良くしゃがみ込んで小声で話をしている。


「怖くねーのか?俺らワンチャン死ぬんだぜ」


「皆さんが一緒なので、別に大丈夫ですね。というより、僕は爆発しないって信じてます」


航海の声は一定の声量なのに、最後だけ語気が強まった気がして。


『14,13…』


「流石サイコパス」


「不意打ちで褒めないで下さい、照れますから」


「いや、褒めてはねぇな」


とうとうカウントダウンが1桁に突入し、壱さんが最年少の少年の肩を護るように抱き寄せたのが見えた。



「怪盗mirage、楽しかったな」


「そうだね。って、何でこれで終わりみたいに言ってるの」


その時、部屋のドアの近くで頭を手で覆った銀ちゃんと湊さんの話し声が私の耳に届いた。
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