ママの手料理 Ⅲ
湊さんの突っ込みを受け、フッと笑みを零した銀ちゃんの整った横顔が見える。


もう、彼の目は狼の様に尖ってはいなかった。



「最後に賭けでもするか。俺は爆発しないに一票」


「えっ、僕も爆発しないに一票なんだけど…」


『8,7…』


2人の会話はまるで爆発を恐れていないようで、流石だなと感心してしまう。


目を瞑って彼らの会話を聞いていた琥珀の顔にも、柔らかな笑みが浮かんだ。


「何だよ、賭けも出来ねぇなんてお前も終わりだな」


「ううん、お題が悪かったんだよ」





それきり、このだだっ広い部屋からは誰の話し声も聞こえなくなった。





聞こえてくるのは、伊織の震えるカウントダウンの声だけ。


『5,4,3……』




とうとう数字が0に近づく、その瞬間。


(あ、)


固く固く目を瞑った瞬間、私の頭の中で沢山の景色が浮かび上がったのだ。



これが、俗に言う走馬灯というものだろう。



小さい頃、本当の肉親と料理をして笑いあった日々。


公園で蝶々を追い掛けて転んで、友達に手当てされながら泣いたあの日。


家が火事になり、大号泣する私を荒川次郎が慰めた事も、養護園で優しい仲間に出会えた事も。


丸谷家に仲間入りした初日の夜、家族がお洒落なレストランに連れて行ってくれた事。
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