ママの手料理 Ⅲ
もう映画の中でしか見られないような素晴らしい光景に、感動して上手く言葉が出ない。


「…天国だ」


リムジンに乗った時と同じ感想を口にすると、


「こちらは夜景も美しいので、日が暮れましたら是非お部屋からもご覧下さいませ」


林堂さんが私達に向かって微笑み、では、とホテルの方を手で指し示した。


「それでは、チェックインに参りましょう。このホテル1番のスイートルームをご用意しております」


そんなに高い部屋を予約しているなんて、ジェームズさんという方は何て太っ腹なのだろう。


その言葉を聞いた私達は、キャリーケースを引きながらぞろぞろとホテルへ向かって歩き出した。



「…銀ちゃん、まだ体調悪いの?」


私達を代表して湊さんがチェックインをしている間、私達は傍にあったソファーに座って思い思いにくつろいでいた。


上から吊り下がるケーキのように巨大なシャンデリアの写真を撮っていた私は、隣で全くこの景色を堪能せずに俯いている銀ちゃんにそっと声をかけてみた。


思い返せば、日本を出発してから此処に至るまで、彼が元気そうな姿を見せた事は1度もない。


(酔い止め飲まなかったのかな)


帰国までホテルのベッドで寝込んでいました、なんていう事になったら、わざわざ渡米してきた意味がない。
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